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東京地方裁判所 平成11年(行ウ)155号 判決 2000年5月15日

原告

大倉興業株式会社

右代表者代表取締役

大倉京斗

右訴訟代理人弁護士

佐野榮三郎

被告

本郷税務署長 及川昭一

右指定代理人

大圖明

岡村雅彦

渡邉芳雄

杦田喜逸

吉野隆司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成九年一〇月九日付けでした原告の平成四年九月、同年一〇月、平成五年一月、同年四月及び同年七月の各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が原告に対し、原告代表者個人が負担すべき借入金利息等を原告が支払ったことが右代表者に対する賞与の支給に当たると認定して行った源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分の取消しを求めている事案である。

一  前提となる事実(末尾に証拠を掲記した以外の事実は、当事者間に争いがない。)

1  原告の昭和六二年一〇月一日から昭和六三年九月三〇日までの事業年度(以下「昭和六三年九月期」といい、原告の他の事業年度についても同様に略記する。)の法人税の更正処分等の経緯

(一) NTT株式の取得経緯

原告は、旅館業(ホテル)等を営む株式会社であり、大倉京斗(以下「大倉」という。)は原告の代表取締役であるが、大倉は、昭和六二年一〇月ころ、かねて親交のあった株式会社つくば商事(以下「つくば商事」という。)役員の日置勝巳から誘われ、原告とつくば商事が共有する座間市相武台所在の土地建物を担保に資金を借り入れて日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)の株式を購入することとし、日置勝巳が丸万証券株式会社東京支店にNTT株式四〇〇株の取得の手配を依頼した。

日置勝巳は、つくば商事と原告が二〇〇株ずつ購入するつもりでいたが、大倉は原告及び大倉が各一〇〇株ずつ取得することを希望したことから、結局、つくば商事が二〇〇株、原告及び大倉が各一〇〇株ずつ取得することとされた。

そこで、つくば商事は、同年一一月一〇日、原告を保証人、購入したNTT株式を担保として、東海銀行から一〇億五〇〇〇万円を借り入れ、さらに、原告及び大倉はつくば商事からそれぞれ二億六二五〇万円を借入れ(以下、大倉の借入金二億六二五〇万円を「本件借入金」という。)、同月二二日、右借入金をもって、原告と大倉の株式各一〇〇株(以下、大倉のNTT株式一〇〇株を「本件株式」という。)の各購入代金の決済がされた。

(二) 原告及び大倉のNTT株式に係る申告状況

原告は、NTT株式一〇〇株を取得した日(昭和六二年一一月一〇日)の属する昭和六三年九月期の法人税の確定申告に際し、「有価証券の内訳書」にNTT株式一〇〇株を二億五五〇〇万円で買い入れた旨を、「借入金及び支払利子の内訳書」に東海銀行飯田橋支店からの借入金として(正しくは、つくば商事からの借入れである。)二億六二五〇万円をそれぞれ記載し、確定申告に添付して提出した。

一方、大倉は、昭和六三年分所得税の確定申告に際し、「財産及び債務の明細書」に、本件株式を含むNTT株式一七〇株及び東海銀行飯田橋支店からの借入金(正しくは、つくば商事からの借入金である。)二億六二五〇万円を、「所得の内訳書」に右NTT株式一七〇株の昭和六三年六月及び同年一二月支払分の配当金収入各四二万五〇〇〇円、配当所得の金額の計算上控除される負債の利子として本件借入金に係る支払利息一四二一万三八三五円をそれぞれ記載し、確定申告書に添付して提出した。

(三) 東京国税局査察部の調査と原告の提出した修正申告書等

(1) 東京国税局査察部(以下「査察部」という。)は、平成元年四月二七日、原告に対する強制調査を実施し、原告が昭和五九年九月期ないし昭和六三年九月期において、ホテル事業の売上金額の一部を除外していること、その除外資金の大半が、大倉のゴルフ費用、大倉の韓国在住の親族に対する援助金及び本件借入金に係る支払利息(以下「本件支払利息」という。)など、大倉個人が負担すべき費用に充てられていることを把握した。

(2) そして、査察部は、簿外費用は原告の損金に算入できるものの、右大倉個人が負担すべき費用については、大倉に対する認定賞与に当たり、損金には算入できない旨を原告に説明し、修正申告の慫慂をしたのに対し、原告は、右大倉個人が負担すべき費用部分を認定賞与とされた場合は、これに係る源泉所得税の負担が多額となることから、当該部分を原告の大倉に対する貸付金として認容してほしい旨主張した。

(乙四ないし同六)

(3) そこで、査察部は、原告に大倉の個人費用を貸付金とした場合に必要な修正申告書の記載内容を具体的に示すとともに、大倉の個人費用を貸付金とする場合には、その旨の原告の取締役会議事録及び大倉の原告に対する金銭借用証書を併せて提出する必要がある旨伝達した。

ところが、原告は、昭和六三年九月期において大倉が負担すべき本件支払利息一二七一万〇四二四円につき、査察部が原告に示した修正申告書の記載案に従わず、これを原告が負担する支払利息であるとして原告の損金の額に算入させた上、修正申告書を提出し、本件支払利息以外の大倉個人が負担すべき費用についてのみ取締役会議事録及び大倉の原告に対する金銭借用証書を提出した。

(4) 被告は、査察部からの連絡や送付された調査資料を調査することにより、本件支払利息は大倉個人が負担すべきものであって、原告が負担すべきものではなく、また、査察部と原告との修正申告書提出前の交渉内容からすれば、本件支払利息の支払は原告の大倉に対する貸付金であり、したがって、原告の損金に算入できないと判断して、平成二年九月二九日、原告に対し、昭和六三年九月期の法人税について、本件支払利息の損金算入を否認し、原告が提出した修正申告書の期末利益積立金額(貸付金勘定)に、本件支払利息相当額を加える内容の更正処分をするとともに、昭和六〇年一〇月分ないし平成元年一二月分の原告の給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分及び重加算税の賦課決定処分をした。

(乙四)

(四) 取消訴訟における判決

原告は、昭和六三年九月期の法人税の更正処分の取消しを求めて訴訟に及んだが(東京地方裁判所平成五年行ウ第二〇号)、同裁判所は、本件借入金及び本件株式は大倉に帰属するものであり、本件支払利息を原告の損金に算入することはできないとして原告の請求を棄却するとともに、本件支払利息は原告の大倉に対する貸付金として処理されるべきものである旨判示した。

原告は、右判決を不服として控訴したが(東京高等裁判所平成六年行コ第四二号)、同裁判所は、同年一〇月二七日、右第一審判決の理由をそのまま維持して原告の控訴を棄却した。

右判決に対しては、原告は上告せず、これが確定した。

2  平成元年九月期ないし平成三年九月期の法人税の更正処分等の経緯等

(一) 法人税について

被告は、調査の結果、原告が、平成元年九月期ないし平成三年九月期の法人税の申告に当たり、右各事業年度中において大倉が負担すべき本件支払利息、本件借入金に係る印紙税及び本件株式の配当金に係る源泉所得税をそれぞれ支払い、原告が負担する費用であるとして損金の額に算入し、右配当金を益金の額に算入していること、本件株式の株主名簿上の名義は、昭和六三年三月二五日に大倉名義に変更され、右事業年度中に他に変更されたことはなかったこと、右事業年度中に支払われた本件株式に係る配当金は、すべて大倉名義の銀行口座に振り込まれていること等をそれぞれ把握した。

被告は、右各事実と、前記1の本件株式の取得経緯、原告及び大倉のNTT株式に係る申告状況、査察部の調査とこれにより原告が修正申告書を提出した経緯により、本件株式は、大倉が本件借入金を資金として自ら購入したものであって、本件株式及び本件借入金はいずれも大倉個人に帰属し、原告に帰属するものではないと認められたことから、原告の平成元年九月期から平成三年九月期の法人税について、本件支払利息、右印紙税及び源泉所得税の損金算入並びに本件株式に係る配当金の益金算入をそれぞれ否認し、右損金算入否認額(本件支払利息と右印紙税及び源泉所得税の合計額)と益金算入否認額(右配当金)との差額は原告の大倉に対する貸付金であると認めて、原告の右各事業年度の期末利益積立金(貸付金勘定)に、右差額を加える内容の更正処分をした。

(二) 源泉所得税について

被告は、右貸付金相当額を認定したことに伴い、これに対する利息相当額の経済的利益が日々原告から大倉に供与されたものと認め、当該利益供与は原告の大倉に対する報酬の支給に当たると認定したが、右報酬の支給に係る源泉所得税が納付されていないことから、原告に対し、右報酬に係る源泉所得税の納税告知処分を行った(なお、右処分のうち平成三年一〇月分ないし平成四年九月分は、平成七年一一月二八日付けで取り消された。)。

(三) 取消訴訟における判決

(1) 原告は、平成元年九月期ないし平成三年九月期の法人税に係る右更正処分及び源泉所得税の右納税告知処分等の取消しを求めて訴訟に及んだところ(東京地方裁判所平成七年行ウ第五四号)、同裁判所は、平成九年一月二九日、本件借入金及び本件株式はいずれも大倉に帰属するとして、本件利息を原告の損金に算入することはできないとの判断を示したが、本件支払利息等を原告の大倉に対する貸付金として被告が処理した部分について、原告としては、本件支払利息等を大倉個人において負担すべきものであることを承知しながら、原告の資金でこれを支払っていたものであり、それによって、原告は大倉に対し右支払利息等相当額の経済的利益を供与したものということができ、本件支払利息等に係る支払は賞与の支給に当たる旨判示して、原告の請求の一部を認めた(以下「九年一月地裁判決」という。)。

(2) 被告は、九年一月地裁判決中、被告敗訴部分に不服があるとして控訴したが(東京高等裁判所平成九年行コ第二二号)、同裁判所は、同年一一月二〇日、右判決理由をそのまま維持し、被告の控訴を棄却した(以下、右高裁判決を「九年一一月高裁判決」という。)。

(3) 被告は、九年一一月高裁判決中、平成元年一一月分、平成二年二月分、同年五月分、同年八月分及び平成三年九月分の源泉所得税の納税告知処分並びに平成二年二月分、同年五月分、同年八月分及び平成三年九月分の不納付加算税の賦課決定処分に係る部分について、なお不服があるとして、現在、上告中である。

3  平成四年九月期及び平成五年九月期の法人税の更正処分等の経緯

(一) 被告は、調査の結果、前記の平成元年九月期ないし平成三年九月期の際と同様に、原告は、平成四年九月期及び平成五年九月期の法人税の申告に当たり、右各事業年度中において大倉が負担すべき本件支払利息、本件借入金に係る印紙税及び本件株式に係る配当金に係る源泉所得税をそれぞれ支払い、原告が負担する費用であるとして損金の額に算入し、本件株式に係る配当金を益金の額に算入していること等をそれぞれ把握した。

(二) 被告は、右の各事実と、前記1の本件株式の収得経緯、原告及び大倉のNTT株式に係る申告状況、査察部の調査とこれにより原告が修正申告書を提出した経緯により、本件株式は、大倉が本件借入金を資金として自ら購入したものであって、本件株式及び本件借入金はいずれも大倉個人に帰属し、原告に帰属するものではないと認められたことから、平成七年一一月二八日、原告の平成四年九月期及び平成五年九月期における本件支払利息、右印紙税及び源泉所得税の損金算入並びに本件株式に係る配当金の益金算入をそれぞれ否認し、右損金算入否認額(本件支払利息と右印紙税及び源泉所得税との合計額)と益金算入否認額(本件株式に係る配当金)との差額は原告の大倉に対する貸付金であると認めて、原告の右各事業年度の期末利益積立金(貸付金勘定)に、右差額を加える内容の法人税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件当初更正処分等」という。)をした。

(三) 原告は、平成九年二月一二日、本件当初更正処分等の取消しを求めて訴訟に及んだ(東京地方裁判所同年行ウ第四〇号)。

(四) その後、被告は、本件支払利息が原告の大倉に対する貸付金には該当せず、原告の大倉に対する経済的利益の供与、すなわち賞与の支給に当たる旨の九年一月地裁判決を踏まえ、原告の平成四年九月期及び平成五年九月期における本件支払利息及び本件借入金に係る印紙税代(以下、本件支払利息と併せて「本件支払利息等」という。)等について検討し、本件借入金及び本件株式は大倉に帰属するものの、本件支払利息等は大倉に対する賞与と認めて本件支払利息等の額に相当する金額の貸付金認定を取り消し、法人税法六七条に規定する課税留保金額及びこれに対する税額を計算した結果、既に本件当初更正処分で確定した法人税額が過大となることから、右過大理由及び貸付金勘定から右で減算した差額を控除したところの期末利益積立金の明細を附記した平成四年九月期及び平成五年九月期の法人税に係る各減額更正処分等(以下「本件再更正処分等」という。)を平成九年一〇月九日付で行った。

(五) 原告は、平成一〇年二月二四日、前記取消訴訟(東京地方裁判所平成九年行ウ第四〇号)を取り下げ、右訴訟は終了した。

4  本件納税告知処分等の経緯

(一) 被告は、平成九年一〇月九日、本件支払利息等の支払は原告の大倉に対する賞与の支給に当たるとして、別表1のとおり、平成四年九月、同年一〇月、平成五年一月、同年四月及び同年七月の各月分の源泉所得税の各納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、「本件納税告知処分」と併せて「本件納税告知処分等」という。)をした。

(二) 原告は、平成九年一一月二五日、被告に対し、本件納税告知処分等を不服として、異議申立てをしたが、三月を経過しても異議決定がされなかったために、平成一〇年三月二日、国税通則法(以下「通則法」という。)七五条五項により、国税不服審判所長に対し、審査請求をした。

(三) 国税不服審判所長は、平成一一年五月二六日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

二  被告の主張する本件納税告知処分等の根拠

1  本件納税告知処分について

本件株式の取得及び本件借入金の発生の各経緯並びに九年一月地裁判決及び九年一一月高裁判決からも明らかなとおり、原告の資金で支払われた本件支払利息等(別表2の<3>欄)は、大倉が負担すべき費用を原告が負担したものであるから、原告は大倉に対し本件支払利息等相当額の経済的利益を供与したものであり、その支払の回数、態様等からすれば、本件支払利息等は臨時的な給与の支給、すなわち賞与に該当する。

ところが、原告は右賞与について所得税法一八三条に規定する源泉徴収をせず、これに係る源泉所得税を国に納付していない。

そこで、同法一八六条一項一号イに基づき、平成六年法律第一〇九号による改正前の所得税法別表第四を適用して右賞与に係る源泉所得税額を計算すると、別表3の<5>欄の各金額となる。

2  本件賦課決定処分について

本件納税告知処分により納付することとなる右各金額を法定納期限までに納付しなかったことについて、原告には通則法六七条一項ただし書に規定する正当な理由があると認められないから、同項に基づいて不納付加算税の額を計算すると、別表1の<5>欄の各金額となる。

三  当事者双方の主張

(原告の主張)

1 本件支払利息等の支払が大倉に対する経済的利益の供与に当たらないこと

原告は、平成三年一〇月一日、大倉から大倉所有の不動産を購入したが、その売買代金により大倉に対する原告の債権の清算を意図して、平成四年一〇月二六日の時点で、大倉に対し、右購入に係る未払金五八四五万〇八一四円を預り保管していた。

かかる状況下で原告が支払った大倉負担分の本件支払利息等は、実質的には大倉に対する右未払金から支払ったとみるべきであるから、原告から大倉に対する新たな経済的利益の供与にはならないというべきである。

2 処分理由の矛盾について

被告は、現在も、本件支払利息相当額はあくまでも大倉に対する貸付金であると主張して、平成元年九月期から平成三年九月期までの分について最高裁判所に上告中であるから、本件納税告知処分等における賞与認定と矛盾している。

また、被告は、平成四年九月期及び平成五年九月期の本件支払利息相当額について、最初は貸付金と認定して本件当初更正処分等を行い、次いで、右貸付金認定を取り消さずに、同一の経済行為を賞与と認定して本件納税告知処分等を行っており、本件納税告知処分等には明白な過ちがある。

3 処分理由の附記について

国の租税についての権利の行使については、納税者である国民に対し、できる限り簡明に、明白に分かりやすくその根拠を示すことが望ましいところ、本件納税告知処分は、前記のとおり、同じ経済効果について異なる認定をしていながら、明白に理由を示していないから、取り消されなければならない。

(被告の主張)

1 本件支払利息等の支払が大倉に対する経済的利益の供与に当たること

原告は、大倉に対する未払金について、従来から有していた大倉に対する貸付金等と相殺し、平成六年九月一四日、右相殺後の残額五八四五万〇八一四円を、本件借入金の返済の一部に充て清算した一方、本件支払利息等については、大倉に対する右未払金と相殺することなく、原告の損金の額に算入して支出している。

そうであれば、たとえ原告が大倉に対する未払金を有していたとしても、実際、本件支払利息等の支出があり、右支出を右未払金と相殺することなく、原告の損金の額に算入しているのであるから、原告は大倉に対して本件支払利息等の額に相当する金額の経済的利益の供与を与えたものといわざるを得ない。

2 処分理由に矛盾がないこと

被告が九年一一月高裁判決について最高裁判所に上告しているのは、本件支払利息相当額が大倉に対する賞与に当たるとの同判決の認定を認めた上、右判決によれば、右利息相当額が賞与に当たることに伴い、右賞与に対する源泉所得税も発生することになるから、支払事実が異なっても右発生税額の範囲内でされている平成元年一一月分、平成二年二月分、同年五月分、同年八月分及び平成三年九月分の納税告知処分等は、なお適法であることを理由として右納税告知処分等のみについて上告しているものであって、被告が本件支払利息相当額を大倉に対する貸付金であると主張して上告しているものではない。

また、被告は、本件当初更正処分等では平成四年九月期及び平成五年九月期中の本件支払利息相当額を大倉に対する貸付金と認定したものの、右支払利息相当額を大倉に対する賞与と認定した九年一月地裁判決を踏まえ検討した結果、右利息等相当額を大倉に対する賞与と認めたことから、右相当額を賞与とすることによって減少することとなる法人税法六七条に規定する課税留保金額に対する税額について、右減少理由及び貸付金勘定を減額したところの期末利益積立金の明細を附記した本件再更正処分等を平成九年一〇月九日付けで行い、それと日を同じくして、本件支払利息等相当額を大倉に対する賞与とした本件納税告知処分等を行っているものであるから、被告がした処分には矛盾した点はなく、明白な誤りもない。

3 処分理由の附記について

通則法三六条は、源泉徴収による国税について税務署長が行う納税の告知において、納税告知書に告知理由を明らかにすることまで要求していないから、本件納税告知処分に処分理由が明らかにされていないとしても、違法となるものではない。

四  争点

以上によれば、本件の争点は次の各点である。

1  本件支払利息等は、原告の大倉に対する未払金から支払われたか否か。

(争点1)

2  本件納税告知処分は、九年一一月高裁判決についての上告事件における被告の主張と矛盾し、また、本件当初更正処分等における貸付金認定を取り消さずになされた違法があるか否か。

(争点2)

3  本件納税告知処分において処分理由を明らかにすることを要するか否か。

(争点3)

第三争点に対する判断

一  争点1について

原告は、大倉が負担すべき本件支払利息等を原告が支払ったとしても、実質的には原告が大倉に対して有していた未払金から支払われたとみるべきであるから、原告から大倉に対する新たな経済的利益の供与はない旨主張する。

しかし、原告が平成三年一〇月一日に大倉から土地を取得したこと、原告の未払金勘定に係る帳簿等によれば、原告が平成四年一〇月二六日時点で大倉に対し未払金五八四五万〇八一四円を有することは、いずれも当事者間に争いがないところであるが、右未払金について、原告が、従来から有していた大倉に対する貸付金等と相殺し、平成六年九月一四日、右相殺後の残額五八四五万〇八一四円を、本件借入金の返済の一部に充て清算したこと、他方、本件支払利息等については、右未払金と相殺することなく、原告の損金の額に算入して支出していることも、当事者間に争いがないところである。

したがって、原告が大倉に対する有していた右未払金は、その一部が原告の大倉に対する貸付金等と相殺され、残額が本件借入金の返済に充てられたから、右未払金から本件支払利息等が実質的に支払われたと評価する余地はないというべきである。

以上によれば、原告は、大倉に対し、本件支払利息等の額に相当する金額の経済的利益を供与したということができるから、原告の右主張は採用することができない。

二  争点2について

1  原告は、本件納税告知処分等における賞与認定は、被告が、九年一一月高裁判決に対し、本件支払利息相当額を大倉に対する貸付金であると主張して上告していることと矛盾すると主張する。

しかし、右上告事件における被告の上告理由書(乙三)によれば、被告が、九年一一月高裁判決のうち、平成元年一一月分、平成二年二月分、同年五月分、同年八月分及び平成三年九月分の源泉所得税の納税告知処分並びに平成二年二月分、同年五月分、同年八月分及び平成三年九月分の不納付加算税の賦課決定処分に係る部分を不服として上告している理由は、本件支払利息相当額が大倉に対する賞与に当たるとの同判決の認定を認めた上、右判決によれば、右利息相当額が賞与に当たることに伴い、右賞与に対する源泉所得税も発生することになるから、支払事実が異なっても右発生税額の範囲内でされている前記納税告知処分並びにこれを前提とする不納付加算税の賦課決定処分は、なお適法であるとするものであって、本件支払利息相当額を大倉に対する貸付金であると主張して上告しているものではないことが認められる。

したがって、原告の右主張は採用できない。

2  また、原告は、平成四年九月期及び平成五年九月期の本件支払利息相当額について、被告は、本件当初更正処分等において、貸付金と認定したにもかかわらず、本件納税告知処分等において、右貸付金認定を取り消さずに、同一の経済行為を賞与と認定した過ちがある旨主張する。

しかし、前記のとおり、被告が、本件当初更正処分等において、平成四年九月期及び平成五年九月期中の本件支払利息、本件借入金に係る印紙税及び本件株式に係る配当金に係る源泉所得税の合計額と、本件株式に係る配当金との差額を、原告の大倉に対する貸付金と認定したこと、その後、被告が、右支払利息相当額を大倉に対する賞与の支給に当たるとした九年一月地裁判決を踏まえ、本件支払利息等を大倉に対する賞与と認めて、本件支払利息等の額に相当する金額の貸付金認定を取り消し、法人税法六七条に規定する課税留保金額及びこれに対する税額を計算した結果、既に本件当初更正処分等で確定した法人税額が過大となることから、右過大理由及び貸付金勘定を減額したところの期末利益積立金の明細を附記した本件再更正処分等を平成九年一〇月九日付けで行ったこと、被告が、同日、本件支払利息等の支払を大倉に対する賞与の支給に当たるとして本件納税告知処分等を行ったことは、いずれも当事者間に争いがない。

これによれば、本件当初更正処分等における貸付金認定は、本件再更正処分等において取り消されており、被告がした本件再更正処分等と本件納税告知処分等との間には、何ら矛盾する点はないというべきである。

したがって、原告の右主張も採用することができない。

三  争点3について

原告は、本件納税告知処分は、理由の附記を欠くと主張する。

しかし、通則法三六条一項二号は、税務署長が、源泉徴収による国税でその法廷納期限までに納付されなかったものを徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならないと定めているが、右納税の告知については、税務署長が、納付すべき税額、納期限及び納付場所を記載した納税告知書を送達して行うと規定されているだけであり(同条二項)、右納税告知書に告知理由を附記することは要件とはされていない。

また、通則法七四条の二第一項は、国税に関する法律に基づき行われる処分その他公権力の行使に当たる行為について、行政手続法第二章及び第三章の規定を適用しない旨を定めており、他に、納税告知処分において処分理由を附記すべきことを定めた法律の規定はない。

したがって、本件納税告知処分において処分理由が明らかにされなかったとしても、違法となるものではないから、原告の右主張は失当である。

四  以上のとおり、原告の前記主張はいずれも理由がなく、原告の本件支払利息等の支払は大倉に対する経済的利益の供与に当たるところ、その支払の回数、態様等からすると、臨時的な給与である賞与の支給に該当するというべきである。

そして、原告が右賞与について所得税法一八三条に定められた源泉徴収を行わず、これに係る源泉所得税を国に納付していないところ、同法一八六条一項一号イ、平成六年法律第一〇九号による改正前の所得税法別表第四に基づき、右賞与に係る源泉所得税額を計算すると、別表3の<5>欄の各金額となるから、これと同額でした本件納税告知処分は適法である。

また、本件納税告知処分により納付することとなる右各金額を法定納期限までに納付しなかったことについて、原告には通則法六七条一項ただし書に規定する正当な理由があると認められないところ、同項に基づき、不納付加算税の額を計算すると、別表1の<5>欄の各金額となるから、これと同額でした本件賦課決定処分は適法である。

五  よって、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

別表1

本件納税告知処分等の経緯

<省略>

別表2

本件支払利息等の明細

<省略>

別表3

大倉に対する賞与に係る源泉所得税額の計算表

<省略>

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